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アーカイブ002 ディスカッション

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JAWHOセミナー「大規模災害における避難者の健康と避難所環境について~令和6年能登半島地震を踏まえて~」でのディスカッションの要約を掲載いたします。

セミナーディスカッション

総合討論:専門家と現場担当者が語る避難所の環境改善と今後の課題

講演に続き、研究者2名と、実際に避難所運営の陣頭指揮を執った石川県志賀町の担当者を交えた総合討論が行われました。現場の実体験と専門的知見を融合し、今後の災害対策のあり方について議論が交わされました。

現場からの報告:志賀町担当者による避難所の実体験

石川県志賀町・都路活性化センターの吉村氏より、発災直後から避難所閉鎖に至るまでの生々しい状況が報告されました。

過酷な暖房環境:

発災当初、幸いにも電気は通電していたものの、施設の暖房設備が一部故障。追加で受け入れた約80名の避難者は、灯油ストーブなどで厳冬期を凌ぐことを余儀なくされました。

空気清浄機導入による劇的な変化:

2月に空気清浄機(エアドッグ)が17台配備されると、避難者からは「灯油ストーブの嫌な臭いから解放された」と喜びの声が上がりました。フィルターに付着した大量のススやホコリを目の当たりにし、それまでいかに劣悪な空気環境であったかを改めて認識させられたといいます。

研究者による考察と今後の研究課題

報告を受け、研究者からは以下の見解が示されました。

健康状態改善の可能性:

健康調査が行われた1月~2月時点では、避難所の劣悪な環境が避難者の健康状態を損なっている可能性が示唆されました。しかし、その後に空気清浄機が導入されたことで、室内環境の改善がその後の健康状態の回復に寄与した可能性があり、今後の追跡調査でその効果を検証したいとの展望が述べられました。(辻口准教授)

災害フェーズの明確化:

本日の議論は、発災直後の急性期(生命維持が最優先)ではなく、その後の長期にわたる避難生活において「災害関連死」を防ぐという、次のフェーズにおける生活の質(QOL)向上策に関するものである点が改めて確認されました。(橋本理事)

今後の災害対策に向けた提言と課題

討論を通じて、今後の災害対策を考える上で重要な課題と提言が浮き彫りになりました。

「平時からの備え」としての空気清浄機の備蓄

避難所運営を経験した吉村氏からは、他の自治体へのアドバイスとして、空気清浄機の備蓄が強く推奨されました。特に、コロナ禍の避難所運営では、感染者と非感染者のエリア分けが必要となる中、空気清浄機の存在が非感染者に大きな「安心感」を与えたという心理的効果の重要性が強調されました。

科学的データの政策決定への活用

研究者からは、今回の調査結果を学術論文として公表するとともに、防災関連のイベントなどを通じて全国の自治体担当者に直接働きかけていく方針が示されました。自治体が空気清浄機などの新たな備蓄品を予算要求する際に、その必要性を裏付ける客観的な根拠(エビデンス)として、今回の調査データが活用されることへの期待が述べられました。

情報共有と脆弱層への対策

災害時に何が起きるのか、という正確な情報を広く共有するとともに、データ分析を通じて災害時に特に健康被害を受けやすい層(例:社会活動を担う女性など)を特定し、その人々を重点的に支援するための基礎資料を整備していくことの重要性が確認されました。

本討論は、災害関連死を防ぐためには、食料や毛布といった従来の備蓄品に加え、避難所の「空気の質」を確保するという新たな視点が不可欠であることを明確に示しました。