JAWHOセミナー「見えないカビの恐怖!住まいと健康を守るための最新カビ対策セミナー」での阪口雅弘先生(麻布大学名誉教授, 東京環境アレルギー研究所 所長)のご講演の要約を掲載いたします。
カビの健康被害とカビ以外の室内アレルゲン
室内アレルゲンと健康被害:カビ・ダニ・ペットに関する専門家解説と対策
私たちの生活空間には、目に見えない様々なアレルゲン(アレルギーの原因物質)が存在し、健康に影響を及ぼす可能性があります。本稿では、東京環境アレルギー研究所の専門家による講演に基づき、主要な室内アレルゲンである「カビ」「ダニ」「ペット」が引き起こす健康被害と、その科学的な対策について解説します。
カビ(真菌)が引き起こす3つの健康被害
カビ(医学用語では真菌)が人体に及ぼす影響は、主に以下の3つに大別されます。
- アレルギー疾患
カビの胞子を吸い込むことで、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎の増悪などを引き起こすことがあります。代表的なアレルギー原因カビとして、アスペルギルスやアルテルナリアが知られています。 - 感染症
抵抗力が低下している場合などに、カビが体内で増殖して感染症を引き起こします。皮膚で発症する白癬(水虫など)から、肺や中枢神経系に影響を及ぼすクリプトコッカス症(ハトの糞などに存在)まで、その種類は多岐にわたります。 - 中毒(カビ毒)
カビが産生する有毒な化学物質「マイコトキシン」を、汚染された食品等を通じて摂取することで起こります。特にアフラトキシンというカビ毒は、強力な発がん性を有することが国際的に知られています。
主要な室内アレルゲンの実態
大規模なアレルギー検査のデータから、室内におけるアレルゲンの主要因は「ダニ」「ペット」「カビ」であることが明らかになっています。これらに共通する特徴は、いずれも空気中を浮遊する微粒子として存在し、呼吸とともに体内に侵入しやすい点です。
- ダニ
室内アレルギーの最大の原因は、チリダニです。ダニの糞や死骸に含まれるタンパク質が強力なアレルゲンとなります。国際的な指標では、ハウスダスト1g中のダニアレルゲン量が2μgを超えるとアレルギー感作(アレルギーになりやすい状態)、10μgを超えると喘息発作のリスクが高まるとされています。日本の家屋は、この基準値を大幅に超える事例が多く報告されています。 - ペット
ペットの飼育数増加に伴い、そのアレルギーも増加傾向にあります。特に猫のアレルゲンは、犬のアレルゲン粒子よりも小さいため、空気中に長時間浮遊し、気管支の奥深くまで到達しやすいという特徴があります。これにより、犬アレルギーに比べて喘息など重篤な症状を引き起こすリスクが高いと指摘されています。
室内環境の改善策:空調機と空気清浄機の併用効果
カビ対策として、エアコン(空調機)の活用は有効ですが、その内部は高湿度とホコリの蓄積により、カビの温床となりやすいという課題があります。内部で繁殖したカビが、エアコンの風によって室内に拡散される危険性も指摘されています。
この問題に対し、エアコンと空気清浄機を併用することの効果を検証した実験では、以下のような結果が示されました。
- エアコン内部に付着するカビの量を約69%減少させた。
- 室内の空気中に浮遊するカビの量を約97%減少させた。
- 空気清浄機が空気中のカビの約96%を捕捉し、エアコン内部への侵入を未然に防いだ。
この結果から、エアコン使用時に高性能な空気清浄機を併用することは、エアコンが吸い込むはずのカビ等を事前に除去し、エアコン内部を衛生的に保つ上で極めて有効な対策であると結論付けられています。
室内の主要アレルゲンであるカビ、ダニ、ペットは、アレルギー疾患をはじめとする多様な健康被害の原因となります。これらのアレルゲンは空気中の微粒子として存在するため、その除去と発生抑制が対策の鍵となります。特に、エアコンと空気清浄機の併用は、エアコン自体を汚染から守りつつ室内のアレルゲンを大幅に低減できる、科学的根拠に基づいた有効な手段であると言えます。