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能登半島被災地の避難所における空気環境の調査と対策の提案

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当社団理事の橋本晴男が、金沢大学、日本予防医学会と共に志賀町において実施した「令和6年能登半島震災における避難所の環境整備に関する調査」について、以下の通りご報告します。

【要旨】 避難所は在室者の密度が高く、特に夜間は換気が不十分で、感染性エアロゾル等による感染症リスクが高いと推定されます。空気清浄機の設置により、寒暖などの気象条件によらずこのリスクが低減することが可能です。
避難所になりうる公的施設(公民館、学校等)には平時から空気清浄機を導入し、平時は施設で利用しつつ災害時には避難室で速やかに活用できるようにすることが、今後の自然災害への備えとして有力な選択肢と考えられます。

※2025年3月5日一部修正

能登半島被災地の避難所における
空気環境の調査と対策の提案(報告)
2024年10月21日(2025年3月5日)一部訂正
調査・検討の概要
<背景>
避難所における空気環境は避難者の生活の質,ストレスなどに直結し,また感染症の発生とも関連する。今後の災害対策の参考となる室内環境の調査と,対策の検討を行う。
避難当初は,居住スペース,水,食糧,トイレ等,生存のための基本手段がまず求められる。次いで,その後比較的長く続く避難生活においては,在室者の密度が高いことも相まって,空気の汚染(粉じん,臭い,感染性エアロゾルなど)の防止が重要な課題となる。 
<目的>
1・避難所の環境空気の汚染度を評価
2・空気環境改善の目的で機動的に使える空気清浄機の効果を検討
〈調査日と調査場所〉
1・環境調査:2024年7月21日(日)石川県羽咋郡志賀(しか)町志賀町文化ホール,富来(とぎ)活性化センター 
2・避難所の施設管理者へのアンケート調査: 2024年4月12日(金)~13日(土)志賀町内の避難所7か所
〈調査体制〉
金沢大学が中心となり,日本予防医学会,北里大学,(一社)日本空気と水の衛生推進機構が共同参加する「志賀町コホートおよび能登ビッグデータを用いた災害関連死と災害関連疾患に対する個別化予防医学の展開」の一環として実施
(金沢大学倫理審査承認済,No. 2023-341 (714490))
調査の方法:着眼点1
〈空気の汚染度の調査〉
汚染度の尺度として粉じんや感染性エアロゾルの濃度が考えられるが,測定が一般に難しい

二酸化炭素濃度(CO2濃度)を空気の汚染度の指標とした。
COVID-19の「3密」対策における,感染性エアロゾルの濃度に関連する指標


現地避難所(避難室)の調査と,CO2濃度の推定
調査の方法:着眼点2
〈空気の汚染防止対策の検討〉
避難所では,特に夜間は寒さ等のため換気装置の運転を停止していたと考えられる
この結果,室内環境悪化の可能性


空気清浄機により改善可能か?
空気清浄機( A社製)を避難所に設置したと仮定。
1台/避難者10名程度
設計除じん能力315m3/h


空気清浄機による換気効果を加味してCO2濃度を推定
なお,空気清浄機はCO2を除去しないが,粉じん除去効果を二酸化炭素の除去相当として取扱う。
避難所の環境と空気清浄機による改善効果

〈避難所の環境〉(下記①)
環境は悪い(換気装置停止時)
換気状態: 悪い8室 /10室
〈空気清浄機導入後〉(下記②)
環境が大きく改善
換気状態: 良い10室 /10室
空気清浄機による粉じん除去効果の検証

〈実際の避難所で粉じん除去効果を検証〉
避難室No.9(在室人数18名)
モデル粉じんを発生させ粉じん除去効果を測定
① 自然換気のみ,② 空気清浄機(2台)稼働時


③ 空気清浄機単独の効果を推定

〈粉じん除去効果を実証〉(右表・図)
相当換気量 266m3/h(空気清浄機1台当り)
空気清浄機の設置(2台)により、換気量が2.7倍に強化される(321→853m3/h,No.9室)。
1時間で粉じんの99.9%が除去できる(推算)
施設管理者へのアンケート調査結果
< 避難所の管理上での課題 >
第1は感染症対策,第2位が衛生環境(トイレ,シャワー等),第3位が臭い(トイレ,生活臭)
空気清浄機は避難所にとり必須の設備,との意見で一致。
調査結果のまとめ
【下記が明らかになった】
避難所はスペースの割に被災者が多く(「密」状態)、かつ夜間等に換気装置を停止する場合が多いため、換気が不十分で,空気環境が悪い場合が多い。
感染性エアロゾルによる感染症リスクなどが高い環境。
空気清浄機を用いることによって、空気環境を改善し、感染症リスクを低減できると考えられる。
実際の避難所において、空気清浄機による粉じんの除去効果が実証できた。
震災を経験した施設管理者へのアンケートにおいて、空気清浄機は、避難所として必須の設備という認識があった。
今後の対応について(JAWHOとしての考察・提案)

避難所に、空気清浄機を設置することが望ましい。
空気清浄機は、感染症の発生防止,一定程度の臭気の除去など環境改善に有効。
避難所になりうる施設(公民館、学校)に普段から空気清浄機を導入することは今後の自然災害への備えとして有力な選択肢である。
災害直後には、空気清浄機を被災地に運ぶことが困難。
平常時の環境改善に利用しつつ、災害時に避難所に必要数を速やかに配備可能。
この場合、空気清浄機として持つべき要件は、下記が望ましい。
性能が劣化しにくいこと。       
静音性
メンテナンスが容易なこと。特にフィルターの交換が不要で,洗浄により繰り返し使用できる等。
参考文献
日本産業衛生学会産業衛生技術部会:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策用換気シミュレーター.
http://jsoh-ohe.umin.jp/covid_simulator/covid_simulator.html
2.	齊藤宏之, 武藤剛, 花里真道, 橋本晴男. 職域室内空間の新型コロナウイルス感染症クラスター阻止を目的とした3密定量化と可視化の試み:室内CO2濃度推定による換気シミュレーターの構築と実証. 産業医学ジャーナル, 2021. 5.